最近は暑い日が続き、季節が春から夏へ移り変わっていくのを感じます。夏に向けてダイエットを開始しようとしている方も多いのではないでしょうか。世間ではカロリー制限が一番効果的なダイエット法だと思われていますが、実は、極端なカロリー制限や食事制限は逆にダイエットを妨げてしまうのです。一番効果的なダイエット法は、食品を賢く選んでしっかり食べることです。
新たな研究(出典1)により、空腹状態になると体内の脂肪の種類が変わってしまうため、その結果、新陳代謝が鈍り脂肪が燃焼されにくくなるということが明らかになりました。体内の脂肪の種類は3つあります。一つ目は、脂肪燃焼の働きを担う褐色脂肪です。この脂肪細胞は小さく、細胞内のミトコンドリアが脂肪を即座にエネルギーに変換するため、体内の褐色脂肪が多い人はそうでない人に比べてよりスリムな体型をしています。二つ目は白色脂肪で、エネルギーを蓄えたり体温を保持する役割を持ちます。ただし、白色脂肪の増えすぎは肥満や糖尿病への関連性も指摘されています。そして、三つ目は最近新たに発見されたベージュ脂肪です。これは白色脂肪を褐色化するよう働きかけて、脂肪を燃焼しやすくしてくれます。しかし、ベージュ脂肪は空腹ではない時のみ活性化するため、空腹時にはその効果を発揮しません。
米イェール大学が昨年10月に発表した研究によると、空腹になると食欲を司る脳の神経細胞が白色脂肪の褐色化を抑制することが判りました。この作用の起源は原始時代に遡り、幾度となく襲ってくる飢餓を乗り越え生き延びるために、私たちの身体には空腹を感じるとどんな脂肪でも蓄えようとする機能が備わっていたのです。そうは言っても、食べ過ぎもよくありません。食べ過ぎは白色脂肪を増加させるだけでなく、褐色脂肪の燃焼力も妨げてしまいます。よって、腹八分目ぐらいがちょうどいいのです。
それでは、脂肪燃焼を促す方法を幾つかご紹介しましょう。まずはメラトニンの分泌を促進することです。(出典2)睡眠の質を向上してくれるホルモンとして知られるメラトニンには、ベージュ脂肪を増殖させる働きがあるのです。日常生活でこのメラトニンの分泌を増やす方法としては、寝る1~2時間前にはブルーライト(携帯電話・パソコンなど)を見ることを避けることです。そして、部屋を真っ暗にして寝ること、日中に太陽の光を浴びること、メラトニン分泌を促す食品(酸味の強いさくらんぼ、くるみ、米、バナナなど)を食べることも効果的です。
次に、上質な睡眠を毎晩欠かさないことです。睡眠が十分でないと、血糖値とインスリン値が上がり、さらにはストレスホルモンであるコルチゾールと空腹を促進するホルモンのグレリンの分泌を促します。よって、空腹感が増し、脂肪を貯蔵しようとする作用が助長されてしまいます。
また、運動も脂肪燃焼には必要不可欠です。なぜなら、体を動かすことで放出される酵素イリシンが白色脂肪を褐色化してくれるからです。最近の研究(出典3)により、この効果は3ヶ月も持続することが判っています。
あとは、日々の食生活にりんごを取り入れるのもいいでしょう。ある動物実験(出典4)で、りんごの皮に含まれるウルソル酸は褐色脂肪を増やすということが判りました。高脂肪の食事を与えられた場合でも同じ効果があったそうです。
最後は、意外かもしれませんが、室内温度を低めに設定することです。ある研究(出典5)で、褐色脂肪が平均値よりも低い若い男性グループに、室温17.2度の部屋に毎日2時間入ってもらったところ、通常の室温にいたグループより108キロカロリーも多く燃焼したことが判りました。また、6週間の調査期間を終えた後には、さらに289キロカロリーも多く燃焼したそうです。よって、この研究者は低い室温は白色脂肪の褐色化を促進すると結論づけています。
このように脂肪燃焼を手助けする方法はたくさんありますが、肌寒い部屋で寒さに耐えたり、運動をしたり、りんごを食べたり、またはメラトニンの分泌を増やすような努力をしたりするよりも、普段から3食腹八分目を実践して、褐色脂肪を増殖させる方が簡単だと思いませんか?そして何よりも、「食べない」という無理なダイエットはかえって逆効果になるということを覚えておきましょう。
Lots of Love, Erica
(出典1)Yang, X., et al., “O-GlcNAc Transferase Enables AgRP Neurons to Suppress Browning of White Fat, Cell, October 2014, vol. 159, no. 2, pp: 306-317.
(出典2)Jiménez-Aranda, A., et al., “Melatonin induces browning of inguinal white adipose tissue in Zucker diabetic fatty rats,” Journal Of Pineal Research, November 2013, vol. 44, no. 4, p: 416-423.
(出典3)Lee, P., et al., “Irisin and FGF21 Are Cold-Induced Endocrine Activators of Brown Fat Function in Humans”, Cell Metabolism, 2014, vol 19, no. 2, pp: 302-309.
(出典4)Kunkel, S.D. et al., “Ursolic Acid Increases Skeletal Muscle and Brown Fat and Decreases Diet-Induced Obesity, Glucose Intolerance and Fatty Liver Disease,” PLoS ONE, 2012, DOI: 10.1371/journal.pone.0039332
(出典5)Hoeks, W., et al., “Cold acclimation recruits human brown fat and increases nonshivering thermogenesis,” Journal of Clinical Investigation, 2013, vol. 123, no. 8, pp: 3395-3405.
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