情報化がすすみ、よりスピード化を求められる今日。腕にはスマートウォッチ、手にはスマートフォン、そしてパソコンの画面はひっきりなしにメール通知が表示されているといった環境下で、複数の作業を同時処理するマルチタスク能力を求められる傾向があります。マルチタスクとは、例えばEメールを書きつつ別の相手にテキストメッセージを送ったり、電話をしながらスマートフォンで情報をチェックしたり、食事をしながらInstagram、Facebook、TwitterなどのSNSに写真をアップしたりツイートすることなどです。身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。
上記にあるように、テクノロジーの進歩によって複数の作業を同時に行うマルチタスクが可能となりました。マルチタスクがこなせる人材こそが、生産的且つ効率的であると高評価を得ているも、「全てを一度に行う」ことは、実は私たちの心身に大きなプレッシャーを与えているのも事実なのです。
確かに、忙しく限られた時間の中でより多くの処理を行うマルチタスクは、最善の解決策のように思われます。しかしながら、私たちの脳にとっては好ましい行動とは言えないようです。元来、脳は1つのこと(シングルタスク)に集中するように出来ている為、いくつもの情報を同時処理するマルチタスクには向かず、脳の処理速度が落ちてしまうのだそうです。
米スタンフォード大学で行われた研究(出典1)によると、シングルタスクで作業する人と比較すると、マルチタスクで作業をすると、思考整理や情報の取捨選択が困難になり、作業の質と効率を低下させるということが判りました。さらに、注意力散漫、記憶能力低下、そして別業務へ移る際の頭の切り替えも下手であることも判明しています。
ロンドン大学で行われた研究(出典2)では、マルチタスクをすることによりIQが低下することが明らかになりました。これは、徹夜した場合のIQの低下と類似した結果なのだそうです。
それだけではなく、イギリスのサセックス大学の研究(出典3)によると、マルチタスクは、なんと脳内の損傷を招くことが判りました。MRI検査より、幾つもの情報を同時に与えられた被験者に、前帯状皮質の密度低下が見られたのです。この前帯状皮質は、共感する感情・感情のコントロールに関連しています。
以上の結果からわかるように、私たちの脳はマルチタスクではなく、シングルタスクで最適に働くようにプログラムされているのです。何よりマルチタスクで作業をしていると、常に時間に追われ急いでいるためか、落ち着かず集中できない状態に陥ります。それだけではなく、脳が絶え間なくストレスを受けることにより、ストレスホルモンのコルチゾールが増加することも判っています。結果、精神的に疲労してしまうのです。
常に次から次へと作業をこなすこと(タスク・スイッチング)は脳にとって悪い習慣でもあります。メール送信やツイートをするなどの比較的軽量な作業であっても、脳内では報酬系ホルモンと呼ばれるドーパミンが分泌されます。このドーパミンの分泌により、私たちの脳は快楽を感じます。この即席の快楽は達成感とつながり、それを得るためにタスク・スイッチングをやり続けてしまうというものです。これにより、ただメールの返信をしているだけなのに、何か大きな成果を遂げているような錯覚に陥ってしまうのです。
マルチタスクの弊害は、仕事の上での生産性と効率性の低下の問題だけではなく、感謝すべき小さな出来事にも気付きにくくなることにもつながります。例えば、食事が美味しいとか、キレイな花を見つけて心があたたかくなったり、落ち葉をみて秋の気配を感じたり、大好きなペットを撫でたり、お子さんや両親、お友達やパートナーの話に耳を傾けたり、美しい夕日をみたり、こういった些細な幸せを感じることが困難になってしまうのです。マルチタスクからシングルタスクになるべく変えるよう心がけ、心にゆとりを持ちながら仕事と生活の調和を取るようにしましょう。次回の投稿では、実践できる幾つかの方法をご紹介します。お楽しみに!
Lots of Love, Erica
出典1:Ophir, E., Nass, C., Wagner, A.D. (2009). Cognitive control in media multitaskers. PNAS, 106 (37), 15583–15587. http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0903620106
出典2:Wilson, G. (2005). ‘Infomania’ worse than marijuana. Institute of Psychiatry at the University of London. http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk/4471607.stm
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